手術の説明を受けたら昔の人体解剖図を思い出した

※今回取り上げた資料は昭和期の小学生向のものです。しかしながら現代の感覚では生理的に刺激の強い画像と言えるものも複数混在しておりますのでご注意ください。


手術をしたので11月初旬まで入院生活を余儀なくされた。

来年還暦になるが人生で初めての手術、入院だった。

喉の手術だったのだが全身麻酔で

2時間半もかかったようだ。


麻酔が切れたのと同時に

激痛がじわじわとやってきた。

手術当日は

喉だけでなく肩や腰まで痛く

結局ひと晩中一睡もできず。


消灯後

ベッドの上でもがき続けていると

指先の仄かな赤い光に気付いた。

指にもなんか装置が付いている。

指 にも と言ったのは

体中にこれでもかと、いろんなものが付いていたからだ。

・男性シンボルには尿管(膀胱まで管が入って自動でおしっこが出る)

・腕には点滴

・両足にはコード付きプロテクター(血栓防止用)

術後しばらくは酸素マスクまで付いていた。

患部は喉だけなのにここまで自由を奪われるとは

見込みが甘かった。

がんじがらめで身動きできない状態だったが

この指先のETみたいな光を写真に撮りたくて

暗がりの中

スマホをやっとの思いで手繰り寄せた。


そんな時にそんなことを

と思うかもしれないが

激痛と閉塞感からくる滅入った気分を

そんなことで少しでも緩和したかったのだ。



翌朝

看護婦さんにこの写真を見せて

何なのか聞いてみた。

「パルスオキシメーター」

皮膚(指先)を通して動脈血酸素飽和度と脈拍数を測定する装置

だそうだ。(忘れないようにパジャマ申込用紙の余白にメモった)


「ETみたいに遊べますよね」

と受けを狙って話してみたが

「ETみたいと言った患者さんは初めてです」(キリッ)

と冷静かつ口早に返されてしまった。


もう少し簡単に笑いが取れるスキルを身につけなければ

と痛感した。(お笑いタレントになる気はないが)

術後3日目までは点滴ラッシュで

腕には点滴用の管がずーっと差し込まれたまま。

同時に2種やることもあって

こんなにやるんだったら点滴の数かぞえておいて

後で会社の同僚に自慢できたかも

と後悔した。

しかしこの管が腕から露出した状態はまるで

つげ義春の「ねじ式」の主人公になった感じだ。


これも人に話して受けを狙いたいところだったが

看護婦さんに話すことは自重した。

           つげ義春「ねじ式」より



前説がかなり長くなってしまったが

手術前にはもちろん事前にその説明を受けていた。

図入りの手術説明書などの書類

この図を見ていたら

小学生の頃の学習図鑑に載っていた

人体解剖図を思い出した。


退院後

人体解剖図などが載った

学習雑誌などを引っ張り出して

懐かしんでみようと思った。

「小学五年生」付録 あけてビックリ人体  小学館 昭和38年1月発行


なるほどあけてビックリである。

少年の顔はそのままに

神経と筋肉の図だ。

ここからさらにビックリ。

図の中央からさらにページが分かれており


内臓の図

さらには

骨格の図まで展開する。

たとえば上下片方だけのページを変えて

上半身は内臓図、下半身を筋肉図などと

同時にみることもできる。

よく女の子の着せ替え人形帳にあった

上下の衣装を差し替えられるパターンと同じだ。

表紙に書いてある通り

すばらしい人体解剖図となっている。


昭和30~40年代の

学童用人体解剖図は

医学専門書のそれに匹敵するくらいリアルなものが多かった。

このあと

科学系の学習雑誌(小学生向)を3冊紹介したいと思う。

「科学クラブ」第9号 ㈱東雲堂  昭和32年4月発行


昭和時代は定期購読の科学系学習雑誌が流行っていた。

私の知る限りでも4~5種類はあり

「科学クラブ」もその一つ。

こちらにもふんだんに掲載されているので

続けてアップします。

解剖図だが顔だけはしっかり子供なので

そのアンバランスな構図に

強烈な刺激を受ける。

気持ち悪いけど見てみたい感覚だ。

どのような表現がぴったりくるのだろうか。

最近

奇怪な動物などを指して「キモかわいい」

などという言葉を耳にするが

このような解剖図の場合

学習や探求の意味合いもあるので

「キモ好奇心」とでも言うべきだろうか。


「こども科学館」第19号 ㈱国際情報社 昭和36年12月発行


これも定期購読の科学雑誌

はじめから綴じ穴が開いていて

のちにまとめて専用バインダーに綴じ込むタイプだ。

絵本に出てくる主人公のように

やさしい表情の少年だが

首から下はリアルな解剖図。

このギャップに意表を突かれる。


続いては

「科学大観」第7号 ㈱世界文化社 昭和38年2月発行


「ナイス上腕二頭筋!チョモランマ!」

「肩メロン!」「肩にちっちゃいジープのせてんのかい!」

などの掛け声が

現代であったら飛び交っているだろう。

表紙からして強烈すぎで夢にも出てきそうな情景である。

背景もありえないような組み合わせですごく良い。


でも扉を開けると

あまりにリアルで学術的な説明になってるので

あれっこれ医学専門書だったっけ?と

まえがきや奥付を見直してみてみたが

やはり学童(小学校高学年用)向けだ。



裏表紙にも衝撃が・・・

原寸大の人体解剖模型を興味深く見学する

小学生たち。

これはどこかの博物館か何かかと思っていると

本書の中にしっかりと記事があった。


これは東京大学の医学標本館で

小学生が社会科見学として訪れている様子。

室内には裏表紙にあるような実物から型取った原寸大の人体解剖模型や

各種臓器のホルマリン漬け、本物のミイラ

全身入れ墨の人体標本などが展示されている。

さらに目をそむけたくなる様々な奇形児のホルマリン漬けもある。

(この画像はちょっと割愛させていただく)

言うまでもないが

これらは単なる展示ではなく

比較解剖学、病理学、法医学の学習・研究のための

貴重な標本、資料であろう。


本物の臓器を目にしている小学生たちは

本当は「キャーキャー」騒ぎたいところだが

引率の先生に怒られそうだし(当時は押しなべて先生は厳しかった)

厳粛な場所でもあるし

口に手をあてがい感情をグッと押さえている様子が

見てとれる。


驚いたのは

画像上部にある「有名な人々の脳」の記事。

脳のホルマリン漬け写真があり

解説文を読むと

最後に「右の写真は夏目漱石の脳です」と

一言だけ解説されている。

え゛~っ!

さらりと書いているので

うっかり見落とすところだったが

これもっと大事(おおごと)ではないのだろうか。

本来、伝説級の扱いになると思いますよ。

もちろんこれも勝手に標本にされたわけでなく

漱石が生前に献体の意思表示をしていたようなのだ。

ネットで調べてみると

さすがに今は一般には非公開となっているようだが

今でも実際に保存されているらしい。


この東大医学標本館内を

さも簡単に取材撮影、雑誌掲載OKしているみたいで

出版元と太い人脈でもあったのかなと思ったら

監修、編集:東京大学教授 医学博士 藤田恒太郎先生

とあってなるほどと。

本書に掲載されている図や写真のほとんどは

藤田先生所有のものと巻頭言に記されていた。


人体解剖模型は、目をそむけたくなる気持ちと

ちょっと見てみたい気持が表裏一体になっていて

不思議な思いがする。

同じような原寸大の模型は

昔の小学校の理科室にもあって

今にも動き出しそうで強い恐怖感を抱いていた記憶がある。

それでも怖いもの見たさで見てしまう。

やはりこれは「キモ好奇心」だろうか。


実はこのような欲求に応えたプラモデルが商品化されていて

当時かなりの人気があった。


冒頭

組立て説明書をアップしたのだが

このプラモデルに同封されたものである。

ブルマアク製のマン・アナトミーモデル(男性人体模型)=未組立

ブルマアクは

怪獣ソフビ人形で大ブームを起こしたマルサン商店の倒産(昭和43年頃)

の後、金型などを引き継いで設立された会社。

マルサン商店はすでに透視解剖模型シリーズ として

外装をクリア成形した人体、動物、昆虫などの

模型シリーズを発売していた。

これは昭和42年に発行された週刊少年サンデーに掲載された

マルサンの広告。1ページ全面広告なので

メーカーの力の入れ具合がわかる。


ブルマアク製のマン・アナトミーモデルは

このマルサン時代の金型を使って(一部台座のデザインなどは改良)

説明書と箱を一新して販売されたものだと思う。

骨や臓器も細密に型取られている。

組立ながら人体の構造が学習できる

と言ったところか

組み方説明書も丁寧な表記になっている。

臓器を組み立てたら

最後に透明の人体外殻部(表・裏)に挟み込んで完成だ。

組み方説明書の表紙にあるように

「学校に 一般家庭に 病院・医学研究に」

と幅広い層のニーズにも応えられるような

本格的な内容となっている。

恐らく昭和40年代後半だと思うが

値札が当時のまま¥1,200でついている。

現在の価格に換算すると¥10,000ぐらいか。

私が小学生低学年のころ

おそらくマルサン商店製の透視解剖模型シリーズ が

人目を引く商品としての扱いだったのだろう

デパートの玩具売り場の最上位のスペースに鎮座していた。

親におねだりしたが

もちろん即ダメ出しだった、値段的に。

体の構造やしくみがどうなっているのか

体を患うとやはり気になってくる。


病室はラッキーなことに8階の窓側だったので

消灯後はベッドの上から

立川市内の眩いきらびやかな夜景を見ることができた。

術後、激痛に悩まされ、なかなか眠れなかったが

外に目をやると痛みも少し和らぐ気がした。


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