駄菓子屋の引きくじ悲喜こもごも

そもそも駄菓子屋といえば

駄菓子をメインにしたお店ではあるが

あわせてそれと同じくらいの棚割スペースで

駄玩具も取り揃えていた。


その駄玩具の中でも「引きくじ」は

売上成績優秀商品だったといえるだろう。

多くの子供たちが

1等や2等の景品の豪華さに目を奪われ

当る!と念じ(思いこみ)

なけなしの5円や10円を支払い

競って何度も挑戦してしまったあのシステムである。


一応、韻を踏んだタイトルにしてみたが

私も引きくじには

本当に一喜一憂させられた記憶がある。

もちろん「喜」となる確率は

絶望的に低かったのだが。


今日は

そんな「悲喜くじ」もとい「引きくじ」を

まとめて紹介しておきたい。

引きくじには

台紙の吊り下げタイプと箱入りタイプに

大きくは分けられるが

今回は箱入りものに絞ってみてみたい。

昭和40年前後の引きくじである。

3箱共同じ新幹線の箱絵でウサギとYKTのトレードマーク。

今はおそらく存在しない大阪の㈱ヨコタ製。

長辺約45cmの箱の中に

ブリキやプラの乗り物系が

所狭しと詰め込まれている

引きくじとしては標準型。


箱の下方

グリコのおまけサイズがはずれの玩具だ。


冒頭から「引きくじ」といっているが

いまどきの人がいたら

「くじ引きじゃねっ?」

と思うかもしれない。


これはくじの価格が5円の場合

5円引き(くじ)

10円は10円引き(くじ)と呼ばれ

総称した場合は金額は異なるので含めず

「引きくじ」と呼ぶ。

他にも糸や紐を手繰り寄せて引く

糸引きくじ、紐引きくじなどは縁日でもおなじみだが

こちらも総称した場合は頭を省略して共通部分のみ発声し

「引きくじ」となる。


ここで「くじ」そのものは

どんなものか見ておこう。

おもに2タイプある。

1枚の小片をめくって

内側に印刷されていた数字により

それに該当する玩具が得られる。

入荷した時点ではつながっているシートで

お店のおばあちゃんが

ハサミでカットして店頭に出していた。


もう1種は束状のもの。

4~5㎝の短冊の薄紙束から引く抜くタイプ。

隠れていた部分に番号が印刷されている。


昭和時代は

今よりも流行の波が大きく押し寄せる傾向があって

それは子供たちの世界でも同様であった。

駄玩具でも

流行りものは抜け目なく確実に商品化していたようだ。


そこで

子供達が大いに興味を持っていた流行りもので

定番化したアイテムをあげてみた。

(以下、実際の売上順、人気順ではなく私の思いつき順です)


①グライダー

②レーシング

③モーターボート

④野球

⑤相撲

⑥忍者

⑦ウエスタン


当時の流行を推し量るのに

少年向け雑誌の表紙に採用されているか否かが

ひとつの目安としての資料となる。

購読数に大きく影響する表紙の題材は

人気のバロメーターと言えるだろう。


引きくじを見る前に

それを裏付ける印象に残っていた雑誌を

取り揃えてみた。


ではグライダーから順番に


     「こども家の光」 家の光協会 昭和31年9月発行

タイトルからして宗教関連の出版と思われがちだが

農協関連の主婦向け情報誌「家の光」の付録である。

戦前戦後の古くからグライダーは人気の定番商品だ。

     「少年」 光文社 昭和40年5月発行

鉄人やアトムの連載で人気を博した月刊漫画誌。

玩具の電動式レーシングカーセットは高根の花で

垂涎の商品だった。

     「少年」 光文社 昭和41年8月発行

ボート系の駄玩具は

ゴム動力のチープなものから

ご覧のようなラジコンタイプまであったのだが

これを買ってもらえた家庭は

ほんの一握りであろう

自分の周りにはひとりもいなかった。

     「少年画報」 少年画報社 昭和39年8月発行

     「少年サンデー」 小学館 昭和37年1月発行


野球と相撲で思い出されるのが

「巨人、大鵬、卵焼き」だ。

作家としても有名だった堺屋太一氏(昭和36年当時:通産省官僚)が

記者会見の席で

「子供たちはみんな、巨人、大鵬、卵焼きが好き」と発言。

これが子供達に人気のあるものの代名詞して

昭和30年後半から昭和40年代半ばまでの高度経済成長期の

流行語となった。

     少年マガジン 講談社 昭和38年12月発行


時代劇と連動して映画、ドラマでも絶大なる人気だった。

忍者ものは漫画でも伊賀の影丸、赤影、サスケ、風のフジ丸など

ヒット作品が目白押し。忍者ごっこのベースとなった。

     「少年サンデー」 小学館 昭和36年12月発行

映画ララミー牧場の一場面が表紙になっている。

駄菓子屋ピストル系玩具は西部劇ごっこ以外でも

スパイごっこ、戦争ごっこでも必須アイテムであった。

 

それでは順番に

実際の引きくじを見ていこう。



①グライダー

               「グライダー当」 山勝  5円引

アイスキャンディーが1本5円で買えた昭和30年後半

そのころのものだと思う。

一番上の特賞は落下傘とシールつき

当れば超お買い得だ。

3等、4等は主翼のベースに経木が使われ

それに印刷した紙を貼り付けたもの。

先端のおもりは舐めると危ない鉛製で

時代を感じる。



②レーシング

     「ニューレーシングカー当」 王冠印 10円引

価格的に昭和40年代もの。

レーシング人気は

「マッハGoGoGo」タツノコプロの

テレビアニメ放映(昭和42年)で

最盛期を迎える。

1等のレーシングカーと16等の優勝カップ。

16等といえどもクオリティが高い。


空、陸ときて

続くのは海。



③モーターボート

     「モーターボート当」 王冠印 20円引

昭和40年代後半ではないかと。

前出のものより少し後の時代なので

やはり成形のディテールもしっかりしている。

1等(手前)と2等を並べてみた。

2等は近未来的なディテールで

当時の言い方で

「カッチョイイ~!」



④野球

入手した時から

上箱には何も印刷やラベルがなく全くの無地。

しかし、納入業者の人それともお店の人?が書いたのだろうか

手書きのメモが箱中に隠れていた。


5円引き 野球当て

1等、2等 =グローブ

3等~6等 =バット

7等~14等 =ボール

はずれ  =ボール(小)


となっていた。

ビニール製とは言え

グローブが5円で買えるなんて

何としても引き当てたい

射幸心があおられる。


昭和40年から9年間優勝し続けた読売巨人

いわゆるV9時代は名実ともに注目された。

圧倒的多数の子供達が

プロ野球選手を目指していた時代だ。



⑤相撲

「大相撲軍配當」 2円引  カゴメ玩具

2円引きであるし「當」(当)が旧字であるので

昭和30年前後であると思う。

今から65年ぐらい前のものであるが

奇跡的に極美に保存されていた。  

2円で薄緑の紙につつまれた束を引く。


中に人形面子が5枚入っているが

裏面に何等かの赤スタンプがあると当たりで

別途台紙にある景品ももらえた。

ちなみに右端は

若乃花(初代)で裏面に大関と印字されている。

ググッと調べてみると昭和30年大関昇進とあった。

当りの等級が1等2等ではなく

横綱、大関、関脇・・・・となっている。

雰囲気を盛り上げる上手な演出だ。


今回

箱もの限定引きくじということで進めてきたのだが

大相撲軍配當に限り

箱もの+台紙型でイレギュラーとなってしまった。

(完全な箱ものが見当たらず)


さらに

巨人、大鵬、卵焼きのくくりで

進めるつもりだったので

大鵬の人形面子をピックアップしようと探したが

当り台紙のどこにもいない。

横綱昇進前かと大関以下も見てみたが

そこにも見あたらない。

これは記事の構成上

「これはちょっとまずいな」

と思って調べてみたら

昭和相撲の黄金時代を築いた大鵬は

初土俵が昭和31年。

おそらくこの引きくじが販売されたころは

まだ角界デビュー直前だったようだ。


ブログの記事構成も

なかなか思い通りにならないものだ。

引きくじのはずれを引いた時と

同じため息が

思わず出てしまう。

そして横綱より上の特賞は

軍配!×2本

印刷も見事だし

房もリアルに再現されている。

100分の2の確率だ。

果たして誰に軍配が上がったのだろうか。


巨人、大鵬ときて続くのは

卵焼きだが

さすがに卵焼きの引きくじは無かった。

なので代わりとして

食品サンプルの厚焼き卵をご覧いただこう。

こんな分厚いやつが食べたかった。

自宅の食卓に出てきたそれは

母親の高度な技術によって

いつもぺラッと薄かった。


「巨人、大鵬、卵焼き」はまた機会があれば

別途特集したいと思う。



⑥忍者

     忍者セットアテ  東洋

1等2等は両サイドの

プラ製の日本刀と槍である。

あれっ?と違和感を覚えた方も

多いのではないだろうか。

各忍者系武器には

なぜか鉄人やアトムのバッジが

おまけのように付いている。

大量生産で在庫が余っていたのだろうか。

ともあれ人気アイテムであれば何でも盛り込んでしまう

駄菓子屋玩具のご愛敬と言ったところか。

そんな中

ちゃんと伊賀の影丸もあった。

これですよ本来は。

もう少しテイストを合わせてほしかったな

と思うも10円引きの価格を考えたら

贅沢な要望だろうか。


個人的には

8等の鎖鎌(くさりがま)が良い。

鎌の反対側に

リアルに鎖分銅(くさりぶんどう)まで付いている。

(写真では黄色い釣鐘型のもの)

刀や手裏剣、槍などは単品でも多くのものが商品化されていたが

鎖鎌みたいなは地味な武器は

あまり商品化されなかったので貴重だと思う。

          「伊賀の影丸」半蔵暗殺帳その二 横山光輝全集

           昭文社 昭和40年11月発行  より


小学校低学年の時にボロボロになるまで読んだ本だ。


鎖分銅をグルグル振り回して

少し離れている敵を殴打する。

8等が当っていれば

忍者ごっこでこの技をやりたかった。



⑦ウエスタン

「タツヤのおもちゃ」(ウエスタン当)

商品の台紙が英語表記になっていて

オシャレを意識した斬新なデザインかと思いきや

実はこの頃は

玩具の輸出が盛んであった時代。

おそらく輸出用の台紙をそのまま国内用にも

転用していたものだと思われる。

国内販売のものでも

台紙の片隅に¥ではなく¢表記がされているものも

よく見かけた。

1等はミニチュアのウエスタン銃と保安官バッジのセット。

この銃はマッチ棒を弾として装着し

撃つことができる。

是非とも手に入れたいセットだが

引きくじの1等と言ったら

押し並べて確率的には70~100分の1程度だ。


かつて私も

大当たりを妄想して何回もチャレンジしたが

はずればかりだった。

私のおもちゃ箱(お中元用缶詰の空箱利用)には

グリコのおまけほどのかわいいサイズの

自動車や戦車などが大半だった。


チープなはずれ玩具が勢ぞろいではあったが

それでも愛着ある大切な宝箱だった。





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